唐津焼ぐい吞で春酒を愉しむ|#07_誰かに話したく“器”の話

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春になると多くの酒蔵で蔵開きがおこなわれ、春限定の日本酒「春酒」が販売されます。ほのかな甘みとスッキリとした味わい、そして華やかな香りの日本酒が多く、旬の食材である筍(たけのこ)や山菜などとの相性も最高です。そんな「春酒」をより愉しむためにも、酒器選びには拘りを持ちたいものです。先日に引き続き、唐津焼の作家、小島直喜さんの新作酒器「ぐい吞」が17点、新たに入荷しましたので作品のご紹介と共に「ぐい吞」の魅力をお伝えします。

 

「ぐい吞」と「お猪口」の違い

代表的な酒器と言えば「ぐい吞」や「お猪口」が一般的です。「ぐい吞」の由来は、一口では飲みほすことができない量のお酒が入る器とされ、ぐいぐいとお酒が楽しめることから「ぐい吞」と言われるようになったそうです。「お猪口」は、『ちょっとしたもの』が語源であり、ぐい吞とは対照的に、一口で飲みほすことができる量のお酒が入る器とされています。

※詳しくはコチラをご覧ください:#04|御猪口・ぐい吞・盃の違い

因みに、「ぐい吞」の歴史は古く、安土桃山時代後期と言われています。その昔、懐石料理などで使われる器、向付(むこうづけ)に盛られた料理を楽しんだ後、その空いた向付に酒を注ぎ飲んだことが起源と言われています。

 

唐津焼「ぐい吞」の魅力

最大の魅力は独特の風合い土味です。これは、原料となる唐津の土にガラスの原料でもある砂岩が多く含まれているからであり、高温で焼成するとガラス成分が溶け硬く焼締まり、ざっくりと荒々しい土味が生まれるからです。また、唐津焼には伝統的な技法や釉薬があり、表情豊かな「ぐい吞」が多様につくられていることも魅力のひとつです。

知っておきたい唐津焼の装飾技法

唐津焼には様々な装飾技法があります。古より伝わる技法や伝統的な釉薬を小島直喜さんの新作「ぐい吞」と共にご紹介します。

 

・朝鮮唐津ぐい吞

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「朝鮮唐津(ちょうせんがらつ)」とは、飴釉(あめゆう)と藁灰釉(わらばいゆう)の2種類の釉薬を使い、高温で焼成することで釉が自然に溶け合う様子が見所です。非常に難度が高い技法であり、黒く発色する鉄釉を下に掛け、乳白色の灰釉を上から流すものが一般的です。黒と白の美しいコントラストが魅力であり、艶やかなたまりや、互いに混ざり合った部分の“にじみ”、境界に生まれる青や黄色の発色も景色として楽しめます。

 

・斑唐津ぐい吞

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「斑唐津(まだらがらつ)」とは、白濁した藁灰釉(わらばいゆう)を掛け焼成、その表面が斑状になることから斑唐津と呼ばれます。斑模様の多くは素地の鉄分が焼成により表れたものであり、アクセントになっています。斑唐津の特徴は乳白色の釉と唐津ならではの土味です。釉薬を掛けない土見せ部分のザクっとした土肌が醍醐味となっています。また、お酒を注げば見込みの乳白色が揺れて輝き、より一層、お酒が進みます。

 

・絵唐津沓ぐい吞

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唐津焼の「絵唐津(えがらつ)」は、日本で初めて絵付けを施した器といわれており、素地に鬼板(おにいた)と呼ばれる鉄の顔料で絵を描き、長石釉(透明釉)を掛け焼き上げたものです。唐津焼を代表する技法であり、様々な器に用いられています。描かれるモチーフは草木や花、鳥、動物、幾何学文様など多岐にわたり、奔放なタッチと力強さが魅力のひとつです。

 

・彫唐津ぐい吞

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「彫唐津」とは、成形後、素地がまだ生乾きのうちに竹ベラや櫛などで、幾何学的で単純な紋様を彫り、長石釉や斑釉等をかけて焼いたものをいいます。力強い彫文様と彫の中の梅花皮(かいらぎ)が見所となっています。

 

・唐津井戸盃 ※高台部分の梅花皮がポイント

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唐津焼発祥の地、唐津市北波多地区の希少な土から生まれた盃です。赤めの焼き上がりで、高台の“梅花皮(かいらぎ)”や竹節高台、魚子貫入(細かい貫入)、手仕事ならではの轆轤目(ろくろめ)が美しい逸品です。“梅花皮”とは、土と釉薬の収縮の差からうまれ、釉薬が粒状に縮れた状態をいいます。名前の由来は、刀の鞘(さや)に用いられる鮫皮の一種を、本来梅花皮と呼び、粒状の表面が似ているところからの呼び名のようです。

 

・斑唐津皮鯨ぐい吞 ※口縁部分の皮鯨がポイント

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皮鯨(かわくじら)の特徴は、口縁部の黒い縁取りです。皮鯨の由来は、口縁部の黒を鯨の皮(背)、器本体の白を鯨の身(腹)になぞらえたことによります。魚子貫入(細かい貫入)、貝高台、高台まわりの土見せ、兜巾(ときん)、唐津焼ならではの土味など、見所が詰まった逸品です。

 

・唐津ぐい吞

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日本文化特有の美意識「侘び寂び」を感じる逸品です。唐津焼発祥の地、唐津市北波多地区の希少な土でつくられ、細かい貫入が美しく、高台の兜巾(ときん)、削り、唐津焼ならではの土味も見所です。釉薬の隙間から垣間見える土の表情は、再現不可能な偶然性を帯びており、見ていて飽きることがありません。自然に委ねられた趣ある色合いも魅力のひとつです。

 

四季折々で旬の食材を使った料理を楽しむように、日本酒も季節によって違う楽しみ方があります。草木が芽吹く春、華やかな香りの「春酒」を、お気に入りのぐい吞で愉しまれてはいかがでしょうか。

 

※今回ご紹介した作品を含め小島さんの作品は、コチラからご覧いただけます。

※小島さんへのインタビュー記事や唐津焼の歴史に興味がある方は、是非、コチラもご覧ください。

 

誰かに話したくなる“器”の話シリーズ

#01|和の器とは

#02|耳にする“景色”とは

#03|陶器と磁器の違いとは?

#04|御猪口・ぐい吞・盃の違い

#05|やきもの王国九州

#06|唐津焼で彩る食卓

 

豆知識|春の食材「タケノコ」、「筍」と「竹の子」の違いとは?

「筍」も「竹の子」も“竹の若芽”をさす漢字であり、どちらも「タケノコ」と読みますが、使い方に応じて意味が変わります。「筍」は芽が出てから10日間程度で食べることができる場合に使用され、旬を過ぎて食用に適さなくなったものを「竹の子」と表記します。食べ物として表記する際は「筍」、植物として表記する際は「竹の子」と使い分けるのが一般的です。

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