想い
Thought
作陶家・小島直喜氏
佐賀県唐津市で42年に渡り作陶を続ける小島さんは、どのような想いで作品と向き合っているのか、お話を伺いました。
ー 小島さんのものづくりへの想いを教えてください。
子供の頃から、“唐津焼”は唐津の代名詞となっています。 “唐津焼”というカテゴリーは400年ほど前に朝鮮から渡ってきた人たちが作りました。何もないところから唐津焼というカテゴリーを作った人と同じような気持ちで、現代の唐津焼の代名詞と言われるような新しいものを作っていきたい、ここ10年くらいはそういう気持ちで作陶と向き合っています。古典の技術習得をある程度できるようになってくると、今の時代に合う新しいものがあるのではないか、と思うようになったんです。新しいけれど、ちゃんと唐津焼だとわかるようなものを作っていきたいと思っています。
地域の先人も一緒で、昔から代々残されている茶碗も、良いものはすべて個性なのだろうと思っています。僕もその個性が見えるものを作っていきたいですね。
“職人”という誇りをもって、誰もしていないようなもの、私にしか出来ないことをしたいんです。
ー 伝統ある登り窯、その炎との向き合い方を教えてください。
10年前になりますが、3年連続で納得のいく茶碗が1つも出来上がらない時期がありました。茶碗200個焼いてゼロですよ。井戸茶碗の枇杷色を出すために登り窯で実験し、3年で30回くらい焼きました。もう辞めようかと思いましたよ(笑)。でも、そこでの失敗のデータがいまに繋がっているのです。
研究も大事ですが、勘も大事ですよ。計算頼りだと第六感が鈍ります。感覚は音と爪ですね。データばかりに囚われず、感覚的に出来るようになることを目指しています。
※写真:粘土や登り窯の温度管理など長年に渡る貴重なデータを見せて下さいました。
ー 最近はどんな作品を創られているのですか?
お面や人形など、造形的なものが多いです。唐津焼で作ると凄く迫力が出るんです。
割烹料理や懐石料理などの日本料理店からの注文が多く、最近は船の形をした器を作りました。この器だったら刺身を乗せても良いですね。器を冷蔵庫で冷やしておけば、ある程度の時間は新鮮な状態が続きます。機能面も兼ねそろえている器です。
ー 工房があるこの場所、唐津の魅力を教えてください。
窯を作るなら都会に向かって作りたいと思っていましたので、福岡寄りである唐津の浜玉町を選びました。そして何より、私は唐津の山瀬の土に魅せられましたね。ここは山瀬のふもとで、私が15・6歳くらいから訪れていた場所です。希少価値があり、良質な山瀬の土がありましたので、この土地に決めました。
私は小学校5年生の頃から山歩きをしていたので、土を見たらどこの土かわかります。土は、ふるい方によっていろいろ変わるから面白い。ふるわなくてもよかったり、ふるったり戻したり、すると目の調整ができ、これらを使い分けながら40種類ほどある土を生かす作品を創っています。昔は1地域に5~6件くらいは窯が集まっていました。沢山窯があったということは良質な土と水があったということです。ここは綺麗な小川の側で、蛍も見られますよ。
ー 日本の工芸品は地球に優しい“エシカル消費”として国内外から注目を集めていますが、具体的に取り組まれていることはありますか?
外に出ていく産業廃棄物は(生活以外)基本的にありません。すべて土に戻せるものです。藁灰など、基本自然でできた釉薬ですし、化学薬品は使いません。口にしても害がないようなものばかり。薬品など化合物がなくても、自然さえあれば、やきものは焼けます。
ー 今後、創っていきたい作品がありましたら教えてください。
私の作品のひとつに鬼の人形がありますが、こういった造形物が立体的に動いて見えるように、唐津焼の色で作っていきたいですね。私はただの食器屋で終わりたくなくて、個展ができるようになった今でも、もっとアーティスト的なエンターテイナーになりたいと思っています。例えば、唐津焼の土を生かした、壁画のような陶板や、抽象的な作品も、誰もしていないような技法で表現して、新しい作品を創りだしていきたいと思っています。
唐津焼の歴史と今
History
唐津焼の起源は諸説ありますが、安土桃山時代、佐賀県唐津の岸岳(きしだけ)という地で、豊臣秀吉による文禄・慶長の役の際に渡ってきた陶工が始めたとされています。登り窯や、蹴ロクロ、釉薬法など、朝鮮渡来の技術によって作風や種類も豊かになり、日本全国に流通したことで唐津焼は日本を代表する焼物となりました。また、古くから茶の世界では、「一井戸二楽三唐津」という茶碗の格付けがあるように、多くの茶人に愛され、江戸時代には唐津藩の御用窯として発展しました。
唐津焼には、「作り手八分、使い手二分」という言葉があり、作って完成ではなく、使ってもらってこそ真の完成という意味を持っています。器は生活の一部になってこそ、その美しさを発揮するという考え方です。シンプルながらも力強さと暖かさを持つ唐津焼、日本独自の美意識である侘び寂びにも繋がる器のシンプルさは、手持ちの器とも合わせやすく、料理やお酒が映えるものばかりです。毎日の生活で使ってこそ良さが際立つ「用の美」の器を、ぜひ手に取って見てみてください。
匠の技
Craftmanship
プロ用の器
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