春は、旬の食材が豊富に楽しめる季節です。和食の世界でも、春は新鮮な野菜や山菜、魚介類が彩り豊かに登場します。これら旬の素材を活かすのに和食器の存在は欠かせません。和食器は、その美しいデザインと機能性によって、季節の恵みを引き立ててくれます。また、様々な和食器を組合せることで、食卓が一層華やかにもなります。今回は唐津焼の作家、小島直喜さんの新作が入荷しましたので作品のご紹介と共に和食器の魅力をお伝えします。
旬の食材を活かした伝統的な料理を提供する割烹料理店や日本料理店では、様々な和食器が使われますが、よく懐石料理・会席料理などで使われる器として「向付(むこうづけ)」と呼ばれる器があります。元々は、懐石料理のひとつに「向付」というメニューがあり、その料理と器を指していました。左にご飯茶碗、右に汁椀、その向こう側に置かれる料理であることから「向付」と言われるようになりました。懐石料理の「向付(器)」は、最初から最後までお膳に置かれているため、最初に盛られていた料理を食べた後は取り分け器としても使われます。「向付」は懐石料理の顔となる器であるため、季節を感じさせるものや独特の形をしたものが多く使われます。
唐津焼の作家、小島直喜さんの「向付」をいくつかご紹介させて頂きます。
左右非対称“歪み”の美が魅力の「向付」
不完全で不均衡、変化に富んだ本作品には機械で作ったような冷たさはなく、人が作った温かみを感じます。均衡ではない柔和な形には、自然の美、そして親しみさを感じさせてくれます。
「絵唐津向付」※商品ページはコチラ
唐津焼の代表的な技法、絵唐津の向付です。小島直喜さんならではの奔放な鉄絵、力強い筆運びが魅力です。見込には松が描かれています。松は日本人にとって親しみある樹木であり、松竹梅に表現されるなど、おめでたい樹木とされています。また、樹齢数千年と言われる松もあり、不老長寿と結びつけられ縁起が良いともされています。お祝い事などの席でよく使われます。
「粉引向付」※商品ページはコチラ
粉引唐津の向付です。素地に白泥の化粧土を掛け、その上から透明釉を掛け焼成したものです。白い粉が吹いているような風合いになることから、この名がついたと言われています。斑唐津とはまた違った、温かみのある白が美しく、使い込むことで、色合いの変化も楽しむ事ができます。
「唐津蛇喝向付」※商品ページはコチラ
唐津焼では、意図して貫入を入れる釉薬、蛇蝎釉(じゃかつゆう)があります。鉄分を含む黒釉に藁灰(わらばい)や長石など白濁する釉薬を掛けたものです。長石が焼成の際、表面で縮れ下地の黒釉が見えるのが特長です。表面の縮れた様子が蛇(へび)や蝎(さそり)の表皮に似ていたことから蛇蝎と呼ばれるようになりました。他とは被らない通好みの向付です。
「絵唐津蛤向付」※商品ページはコチラ(左:薄墨色 / 右:赤茶色)
唐津焼の伝統的な形、蛤(はまぐり)の形をした向付です。内側には草文様が描かれています。じつは蛤を模した形状は唐津焼のみならず漆器など多くの伝統工芸品で見ることができます。蛤などの二枚貝は対の殻以外とは決して合わないことから、「夫唱婦随・婦唱夫随(仲の良い夫婦)」や「子孫繁栄」を意味するとされ、縁起の良い意匠とされています。
「粉引向付」※商品ページはコチラ
粉引唐津に絵唐津を施した向付です。伸びやかに描かれた草文様や鳥の文様が魅力です。向付としては大きいサイズで深さもあるため、鉢としてもお使い頂けます。
ご紹介した向付は割烹料理店や日本料理店でよく使われている形の向付です。食卓が一段と格式高いものになります。和え物や煮物などを盛り付けても良いですし、お刺身にも最適です。また、唐津焼は、機能性にも優れており、温度を維持する特性(熱しにくく冷めにくい)があります。お皿を冷蔵庫などで冷やしておくと、お刺身は冷たい状態が続き最適な温度で食べることができます。小さな料理を盛り付けるための器「向付」、一人前の料理を盛り付けるのにちょうどよいサイズです。「向付」は料理の美しさを引き立て、食材の味わいを際立たせてくれます。
唐津焼の「小皿」もいくつかご紹介させて頂きます。
「唐津板皿」※商品ページはコチラ(左:絵唐津 / 中:緑 / 右:刷毛目)
4~5寸程度の板皿です。小島直喜さんらしい大胆なデザイン、そして唐津ならではの土味が魅力的です。厚みがあり、ずっしりと重く、小さいながらも存在感があります。唐津焼の伝統的な技法による「絵唐津」、ミカンの枝の灰「みかん釉」を使った淡い「緑」、白泥を刷毛で塗り躍動を感じる「刷毛目」、3つのシリーズをご用意しています。副菜や漬物などを盛り付ける皿として、また、和菓子などをのせる銘々皿としてもお使い頂けます。深さがなく平らな形状でもあるため、串揚げや焼鳥などの串物にも最適です。
「斑唐津山瀬向付」※商品ページはコチラ(左:黄色 / 右:グレー)
貴重な山瀬の土を使い、一つひとつ丁寧に轆轤を引き、もち米の藁灰の釉を掛けつくられた向付です。同じ山瀬の土を用いても、窯焚きの時期や配置場所、薪の数、天候湿度で焼き色が違ってきます。今回は、黄色が強い作品と、グレーが強い作品をご用意しています。どちらも、よく見ると細かい貫入が入っており、青色が混じる滲みもうっとりするほど美しく仕上がっています。また、高台の土見せ部分の焼き色や、ざっくりとした削り、釉薬のたまり等々、存分に楽しめます。大きさ的には小皿・取り皿に適したサイズ感となってます。
器それぞれに違った貫入や釉の流れがあり、機械で大量に生産される器とは違う表情が個性として表れています。毎日の食卓に、ぬくもりのある器はいかがでしょうか。
最後に、唐津焼の味わい深い「湯呑」もいくつかご紹介させて頂きます。
4月は新茶(一番茶)が出回る時期でもあります。お茶の樹は、冬季に栄養分を蓄え温かい春になると、新芽として成長し、最初に採れる茶葉にその栄養分がたっぷり含まれています。「旬の旨味」たっぷりの新茶をお気に入りの湯呑で味わってみてはいかがでしょうか?
湯呑には大きく2種類の形があります。熱湯で入れる番茶やほうじ茶は手で触れた時に熱すぎないよう、厚みのある筒状の湯呑茶碗がおすすめです。質の高い煎茶や玉露などは、そこまで熱くない温度で入れる為、薄くて飲み口が広い汲出し茶碗がおすすめです。汲出し茶碗は一般的に来客用としても使われます。土味でしかだせない柔らかな質感、手にしっくりと馴染む唐津焼の湯呑、大切な方へのプレゼントとしても喜ばれると思います。
今回ご紹介した和食器は、料理の味わいや美しさを一層引き立ててくれます。春の訪れと共に、和食器の魅力を存分に愉しみ、新しい季節を心豊かに迎えられてはいかがでしょうか。
小島さんの唐津焼、茶道具や酒器も魅力です。今回ご紹介した作品を含めコチラからご覧いただけます。
https://andpolite.com/collections/naoki-kojima
小島さんへのインタビュー記事や唐津焼の歴史に興味がある方は、是非、コチラもご覧ください。
https://andpolite.com/blogs/artist-craftsman/naoki-kojima
<豆知識>
「懐石料理」と「会席料理」との違いとは
懐石料理(かいせきりょうり)
懐石料理は、茶道の世界から発展した繊細な料理のスタイルで、料理の調理法や盛り付けにおいて細かい工夫がされています。料理の数は少なく、一品一品が丁寧に調理され、食材の味わいや季節感を重視します。また、料理の順番や盛り付けには独自のルールがあり、器や箸などの和食器にもこだわりがあります。
会席料理(かいせきりょうり)
会席料理は、宴会やお祝い事などの際に振る舞われる、多彩な料理が一度に提供されるスタイルです。料理の数が多く、懐石料理に比べてバラエティに富んだ料理が提供されます。また、懐石料理と異なり、料理の順番や盛り付けには厳密な決まりはなく、季節や地域によって異なるバリエーションがあります。
「割烹料理店」と「日本料理店」との違いとは
割烹料理店
割烹料理店は、高級な日本料理を提供する専門店であり、伝統的な懐石料理を主に提供します。料理は一品一品が丁寧に調理され、季節や旬の食材を活かした料理が特徴です。カウンター席や個室で、料理長や職人が客の目の前で調理を行うこともあります。一般的に割烹コース料理が主流で、コースに沿った料理の順番や組み合わせにこだわりがあります。料理は一つ一つが贅沢で、料理長の技術と季節の食材を活かした内容が特徴です。
日本料理店
日本料理店は、幅広い日本の料理を提供するレストランであり、懐石料理以外にも寿司、刺身、天ぷら、鍋料理など、さまざまな和食メニューが揃っています。料理のバリエーションが多く、比較的カジュアルな雰囲気の店舗が多い傾向があり、単品メニューや定食なども提供されることがあります。料理の提供方法や食事スタイルは、店舗や地域によって異なります。
誰かに話したくなる“器”の話シリーズ
・耳にする“景色”とは|#02_誰かに話したくなる“器”の話
・陶器と磁器の違いとは?|#03_誰かに話したくなる“器”の話