「景色(けしき)の良い器」と言う言葉を耳にしたことはありませんか?焼き物の世界では、窯の炎から生まれた表情、土や釉薬が炎により変化した表情を『景色(けしき)』と呼びます。日本人独特の「美的感覚」とも言われ、古の茶人が『景色』の“美”を見出したと言われています。
今から遡ること600年、1400年頃の室町時代、世界の陶磁器界をリードしていた中国では精巧緻密で完璧な作品が良いとされ、歪みや偶発的に生まれた窯変(ようへん:予期せぬ色や文様に変わること)に価値を置くことはなかったと言われています。一方、日本では茶人達を中心に、色や形の不揃いや歪み、釉薬の変化などに“美”を見出し、趣深く見飽きぬ器としてもてはやされ、日本独自の美意識『景色』として今に伝わることになります。ここで、代表的な『景色』を幾つかご紹介します。
貫入(かんにゅう)
器の釉薬表面にできた“ひび”を貫入といいます。光の角度により多様な表情を見せてくれ、古より器の見所の一つとなっています。貫入は素地と釉薬の膨張収縮の差により生まれます。焼成を終え窯から器を取り出すと、外気との温度差で素地と釉薬が縮みます。基本的に釉薬の方が大きく縮むため、釉薬の表面に“ひび”貫入が入ります。
因みに、唐津焼では、意図して貫入を入れる釉薬、蛇蝎釉(じゃかつゆう)があります。黒釉の表面に長石釉を掛け焼成、すると長石釉が黒釉よりも大きく縮み、縮んだ隙間から黒釉が見え複雑で独特な景色となります。縮れた貫入の景色が蛇(へび)や蝎(さそり)の表皮に見えることから蛇蝎釉と呼ばれるようになりました。
轆轤目(ろくろめ)
轆轤を回転させ指で粘土を引き上げる際に、轆轤の回転にあわせ指の跡が筋状に表面に残ります。指跡以外にもヘラなど道具の跡が残ったものもあり、器の見所、景色となります。実はこの轆轤目、器の内側に付けることはなく、あったとしても気づかない程度です。多くは器の外側に表情を創るために付け、また、均等ではなく動きのある轆轤目とします。作家の個性・センスが見てとれます。
目跡(めあと)
窯焚きの制作過程で生じる伝統的なデザインと言えます。それが下の写真のような目跡(めあと)と呼ばれるものです。器の中心部に3つの小さな土ムラがついています。これは器を重ね焼きする時に、器と器が溶着しないよう小さな耐火性の土を間に挟みます。この跡を「目跡(めあと)」といい、量産型の器にはあまり見られない手仕事の跡です。
石爆(いしはぜ)
これも景色?と思ってしまうかもしれませんが、石爆もりっぱな景色です。作家は作陶の中で、偶然性を求めることが多くあります。それは窯の中で炎により偶然変化したりと、意図しない出来上がりを好むからです。石爆もそのひとつです。素地に含まれた小石が、焼成中に焼けはぜて露出します。こちらも茶人たちに一種の景色とみたてられ珍重されたそうです。
ピンホール
器に小さな凹みがあるのも、これも味わいのひとつです。釉薬の掛かった器にはピンホールとよばれる1ミリ程の凹みが出る場合があります。これは釉薬を掛けた時に生地についた有機物が焼かれ、小さな凹みとなる「ピンホール」という現象です。手作りの焼き物ではこのピンホールも窯の中で起こりうる自然デザインとして捉え、手仕事の器の味わいポイント、景色として楽しみます。
『景色』は器の魅力であり、知ると器の見え方が変わり、一層楽しくなります。